Vanity of Vanities
―セレンティア国イリーア村外れの森―
かーんっ
金属と金属が交わる音が響く中。
一人の少年がもう一度剣を握り直し、再度相手に剣を下す。
「くっ」
相手が少し怯み、少年との間をあける。
相手の目は、不安と恐怖に満ちている。
反対に少年は、剣を鞘に戻し次の一撃で決めるという気迫を纏っていた。
「破魔 龍翔斬」
少年はそう口にだし、龍が天を翔るような俊敏な速さで相手に近づき
鞘から剣を抜き上へ押し上げる。
少年が剣を鞘にもう一度戻したときには、相手は気絶していた。
少年の名は、アルジェ・マルダン。
セレンティア国の外れ、イリーア村の剣士。
剣の腕はイリーア村の一・二を争う名手で、村を脅かす山賊や盗賊などを蹴散らしていた。
彼の幼い記憶は曖昧で、覚えていることは自分の名前と
ぼやけてはいるが両親であろう人物を置いて
誰かとともに戦火を駆け抜けたこと。
そして記憶がしっかりしているのはそのあと、川に落ち
イリーア村の外れに流されたことから。
イリーア村での彼は人々に慕われており、また彼も
イリーア村を守るために修行に励んでいた。
(最近、やたらと盗賊たちが襲ってくるのは何故だ?
理由を聞こうとしたら襲ってくるから相手してみたら、ポンコツばっかりだしよ…)
気絶して倒れている盗賊を木に縛り付け、動けないようにする。
人は殺さない、それが彼の流儀だった。
「アルジェ、どうしたの!?その怪我っ」
イリーアにつき、村の人たちに声をかけていると少し声の高い声がアルジェの耳に届く。
アルジェは眉毛を少し上げ、あからさまに嫌な顔をする。
声をあげた少女は、つかつかとアルジェに寄り、腕を引っ張る。
強引な少女のやりかたに慣れたかのようにアルジェは「あーおうー」と適当な相槌を返す。
「…アルジェ?まさかまた村の外で盗賊たちと会ったんじゃないでしょうね?」
「なんもねえよ、リエージュ」
少女の名は、リエージュ・ブレスト。
アルジェの幼馴染の一人で、村一番の白魔導師のリエーカを姉にもつ。
考えるより行動派というところがアルジェと似ており
短気ですぐに手が出てしまうお転婆娘。
そんな彼女に事の全てを悟られているアルジェは、無視するかのように家へ向かう。
「アルジェ、もう一度言うわよ?村の外で盗賊たちと
その背負ってる剣で、戦ってたんじゃないでしょうね?」
「っるせーな、黙ってろ」
アルジェがその言葉を放った瞬間、リエージュの怒りが沸点に達す。
ぱーんともどんとも聞こえる音が村中に響き渡る。
アルジェの顔に手形がつき、さらに鳩尾も蹴られたため
お腹を押さえて、かろうじて残っている力でリエージュを睨む。
「ぐっ…っ」
「アルジェのばかっ」
走り去っていくリエージュ。
そんな彼女を見送ってから、アルジェは何事もなかったかのように立ち上がる。
「せっかくリエージュが心配して、村の入り口でそわそわしながらお前を待ってたのに
酷くないか、アルジェ」
「お前も説教か?トゥーラ」
物陰に隠れていた少年 トゥーラ・オルレアン。
彼もリエージュと同じアルジェの幼馴染。
考えるよりも手、という彼ら二人に比べて、手よりも考えるのがトゥーラである。
「別に俺は怒ってない。」
「といいながら、リエージュに酷いことをしてる点に対して怒ってる、正解だろ?」
にやっとしながらトゥーラを見るアルジェ。
その笑顔の裏に隠されたものに気づくトゥーラは少し赤面した。
「ば、アルジェっ!!何言ってんだ」
「ムキになんなよ。誰もお前がリエージュが好きだなんて言ってないだろ?
あ、今言っちまった」
「アルジェっ!!」
トゥーラの核心をものの見事に当てたアルジェが、その場から走って逃げる。
トゥーラはアルジェを追いかける。
「元気ねえ、あの子たち」
「ほんと、よく飽きないわ、毎日毎日」
そんな3人の光景が、村では日常茶飯事のことだった。
______
『ぎゃああああああっ』
『ぐぉっ!?!?』
赤と黒が広がった空間。
その中では人の斬りつけ合う音とそれによる叫喚が響き渡る。
そして誰かの声がかすかに聞こえる。
『(悪ィ…みんな悪ィ…。家臣たちを戦争に巻き込んで、王でいる資格はないことは
重々に承知している
けどアイツを守るためなんだ…
____)』
大切な誰かをただ、守ろうとする声が…
「ア…レイ…」
「アルジェ!!起きろーっ!!」
かんかんかん、と金属を金づちのようなもので叩く音がいきなり響き渡る。
その音に、バッと現実に戻される感覚に陥るアルジェ。
先ほどまで見ていたのは夢だったのか、と少し安堵するも
思い返すと何の夢を見ていたのかを思い出せない。
(なんだったんだ?…まあ、良いか)
「アルジェ、何やってんの?
早く行くよ。みんな待ってるんだから」
「おう」
起こしに来たリエージュの言葉に返事し、身を起こす。
その姿を見たリエージュは先に行くね、と言葉を残し部屋を出る。
いつものように服に袖を通し、部屋を出るのだった。