「とーしろー」
ぶんぶんと、俺に手を振る。
アイツは・・・恥ずかしいからやめろと言ったはずなのに
聞く耳を持たない。
「、やめろと言ってるだろ」
「へへ、そーいってやめてほしくないくせにさっ」
傍に行くと、子ども扱いされているように頭をぽんぽんと叩かれる。
「一緒に帰るよ」
といって、俺の手首をつかんではずんずん進む。
近くのS女高校に通うはいつも、E高校に通う俺を待つ。
「今日ね、初めてレズの人見たのっ!
友達とさ、えーっ!!って驚いて、しかもそれが・・・」
いつもこの調子。
が一方的に学校であったことを話し、俺はそれに相槌をする。
俺はみたいに自分から話すタイプじゃないことがわかっている。
だから、これが一番楽だ。
「もーね、一番に冬獅郎に話したくって
帰りが待ち遠しくてさ〜」
にこにこと話す。
その笑顔に俺は、いつも救われているような気がする。
嫌なことをすべて忘れさせてくれる。
けど、それでも俺たちには、恋愛感情の中には入れない。
_________俺たちは姉弟という事実があるから
家族という領域を侵すことはできない。
俺がを想っていても、家族である以上、血がつながっている以上
恋人にはなれない、想いを伝えることがどれだけ多くのヤツを巻き込むかもわかっている。
「冬獅郎」
そう呼ばれ、の方を振り向く。
その瞬間、ぴたっと熱いものが頬から伝わる。
「あつっ」
「あははははは!ボーっとしてる冬獅郎が悪いんだ〜」
軽いやけどをした頬を俺はなでる。
はしゃがみ込んで、お腹を抱えながら笑う。
「あはは、は、は」
からんからん
の手から離れた、俺の頬に当てた暖かい缶の飲み物。
音を立てて、転がった。
の笑い声は静まり、嗚咽が聞こえ始めた。
「?」
持っていたかばんをどん、と落とし、の近くへ寄る。
「…っ、ひっく、」
からからと転がる缶はこつんとガードレールにあたり、止まった。
後から後から溢れ出る涙を必死に拭う。
俺は、傍で跪いて、の様子を見ることしかできずにいた。
「どうっして、」
嗚咽に混じりながら、小さな声でつぶやく。
のその小さな声を聞き漏らさないように、耳を傾ける。
「私たち、姉弟っなの?冬獅郎」
投げられた疑問は、俺だって母さんに聞きたいものだった。
けどそれは、生まれたときから決められた運命で、一生変えることができない事実。
______________________________________俺とは、姉弟であること。
「」
が、想ってくれていなければ
俺がその想いを殺すだけで済んだのに。
苦しみは俺だけのものだったのに。
「冬獅郎が、好きなのにっ」
その悲痛の叫びは、誰もいない道に響いた。
「」
蹲っているを抱きしめた。
の嗚咽は収まらない。
が笑うなら
が隣にいてくれるなら
一緒に人生を歩んでくれるなら
誰もいないところへ消えてしまいたい。
______________________________________何もかもを捨てて。
「、上を向け」
涙をためたの唇にキスをする。
「とう、しろう」
これがにする、最初で最後のキス。
これ以上はもう、求めない。
「ありがとう」
泣き止んだは、ガードレールに転がった缶を拾う。
「今日は寒いから、お姉ちゃんが特別に奢ってあげよ〜っ」
そう言って笑顔になる。
「残念、それ母さんの金」
「あ、それ内緒でしょっ!」
いつもの帰り道。
ふざけあって帰る道。
「冬獅郎のばーかっ!!」
「さっきまで、冬獅郎がすきなの〜って言ってたばかはどこのどいつだ?」
「あーーーっ!知らない知らないっ!こんなヤツ私の弟じゃなーい」
俺の初恋が終わった日。
良かったと、そう思える日は来るだろうか
この恋は間違ってない。
ただ叶わなかっただけ。
だからもう次に踏み出せる。
そして今だから言える。
_______________________________おまえを好きになって良かったと