過ぎたことを、後悔するなんて初めてだった。





「殺セ!」




李塔天さまから、その言葉を聞いたとナタクさまから聞いた。



「俺は、友達を殺さなければならないのか?」



「ナタクさま…」



目覚めはいつも、汗だくで何かに怯えている。


周りはそれに気づいているはずなのに、誰も何も言わない。




さま、もう宮殿へお帰りの時間ですわ」



お付け役が私の傍に来る。




「はい」



ずっと、一緒にいてラクにしてあげたいのにそれさえも叶わない。







出て行く際に、呼び止められる。


お付け役は外で待たせるように言う。




「アイツを」



うつむいて、言葉を紡いで

何かを決心したように私を見る。









「俺に何かあったら、アイツを頼む」








そう私の目を見て行った後、外にいるお付け役に、行って良いぞと

言葉を紡ぎ、私は返す言葉を残さないうちに、部屋を出ることになった。




スタスタと足音が廊下中に響き渡る。




「コラ、悟空っ!」



角を曲がろうとした瞬間、2人飛びだしてくる。


「あっ」


「わぁっ!」




私は小さな何かとぶつかり、尻餅をついてしまった。



様っ!」「様っ!」


「お怪我はありませんか!?」



3人の付き人に言い寄られ、大丈夫だと伝える。




「いってててて…」


しゃらんと鎖がなる音、前を見れば茶色髪。



「どこを見ているんですか?!」

「あなた、ここの者ではないですね!」

様に何かあったらどう責任を取るつもりだったのです!」


と3人一斉に声を張り上げる。



「おいおい、言わんこっちゃねぇ」


あとから角を曲がってきた男を、知らぬ者はいない。


「捲簾大将」

「捲簾大将ではありませんか」


「良いところに、その者から様へ謝罪を」



そうして、捲簾さんに言い寄る。


「良いのです。捲簾大将やその子を開放して」


そういって、私は3人の付き人の間を進む。


「しかし、様っ」



付き人の言葉が聞こえたとき、私は捲簾さんの前につく。





「お、じゃん!」



「うふふ、相変わらず元気ですね、悟空」


しゃらんと身に着けているものが、しゃがんだ時にこすれ合い鳴る。



「悟空を知っているのか?

「えぇ、ナタクさまのお友達ですもの。知らないほうが可笑しいです」


と捲簾さんを見て答える。



そして、悟空のほうをまた見る。


「何をしていたの?」


「捲兄ちゃんがおっかけてくるからよー」


「何か悪いことでもしたんじゃないの?」


「いや、なーんもしてない」




「捲簾大将、子供をいじめるのは止めてくださいね」



「あ、おう」



そうやって、微笑んでその場を後にした。





時は、すぐに来た。



ナタクさまが、天帝に報告をなさっていた時に

悟空がナタクさまが、自分を殺すかもしれないことをどこからか聞いてきた。


それは、李塔天がナタクさまを利用して、やろうとしていたこと。





「殺セ!」



悟空の討伐の言葉は、その場にいた者全てに聞こえた。



ナタクさまは背にある刀を前に持ってきて、悟空に向けた。




悟空を庇って、捲簾大将が、天蓬元帥がナタクさまに対抗する。




「誰か、止めて!ナタクさまを止めてよッ!!」




その願いは、誰も私の臣下であれ聞き入れてはくれなかった。




はっはっはーとその部屋中に響く李塔天さまの声。



がたがたと崩れる部屋。



「ナタクさまっ!!」



キーンと悟空の首に当たる、ナタクさまの刀。





「俺、悟空っていうんだ。よろしくな」




にっと笑う悟空。その笑顔に涙を流すナタクさま。



「悟、空…」





そう零した後に、右肩に自分の刀を挿す。



辺りに血が舞った。




「キャァッ!!」


誰かが叫んだのが合図だった。



「な、たく、さ、ま…」



「救護班、布だ布ッ!!」



捲簾さんがナタクさまを抱え、周りに呼びかけている。




足をがくがくさせながら、私は傍へ寄った。






、ごほっ」


「何を、何をっ」


「怪我は、ない、か?」



ふっと力がない笑いを零す。


「なたく、さま…」


そう泣きそうに言えば、


「     」


とつぶやかれる。


そのまま目を向けるところを変え


「悟空、そっちじゃないこっちだって」



少し強張った声を出し、悟空の腕を引っ張る。




「ホラ… そこの木の… ―うえのほうの とこ とりの巣…が あるんだ




…みえるだろ?」




その言葉を最後に、ナタクさまは息を引き取った。


「―なぁ どこだよ それ なたく ちゃんと… 起きてちゃんと 教えてくれなきゃ みえないよぉお!」



悟空の悲痛の叫びがこの部屋に響いた。










そうして、金蝉さん、天蓬さん、捲簾さん、悟空の下界への逃亡が始まった。





それがもう五百年も前のことになる。







「ナタクさま」







“俺はいつも、お前の傍にいるから”







その言葉いつも心にあって



あのときの光景を、消すことはできなくて。






「必ず、近い将来必ず…」



もう一度、貴方の元へ










無かったことになんて出来ない 私はこれほどまでに思っているから



だからすぐにいくから

貴方の元へ

悲しみの過去は塗り替えることはできないけど

これから楽しくすることはできるから…