「とーしろっ!あたしね好きな人いるんだ」
金槌で、頭を殴られたかのように痛む心。
幼馴染で、ずっと隣に居ると思ってた。
「そうか」
笑えない、でも彼女の幸せを願うなら
俺がここで口を出す訳には行かない。
「なんかね、冬獅郎には1番に言っておきたかったんだ」
満面の笑みを見せる彼女。
その優しさは純粋な彼女の優しさで
でも俺にとって今のその優しさは、凶器くらいの強力なものだった。
「誰なんだ?」
なるべく、彼女に気付かれないように。
なるべく、俺の気持ちが現れないように。
「ひ、」
「ひ?」
「檜佐木...修兵先輩、なんだ」
少し顔を緩ませ、そして赤らめていう彼女。
「先輩ね、女癖悪いとかすっごく言われてるけど
そんなこと、全然ないんだよ?
それにね、」
もったいぶる彼女。
全てを言って欲しい。落ちるなら、もっと落として欲しい。
「昨日、告白されたんだっ」
満面な笑みでピースして俺を見る。
「返事、返したのか?」
と問う。
俺は何を言っているのだか。
そうすると、フルフルと首を横に振った彼女が居た。
「返してないの。まだ、」
満面の笑みに少し影が入る。何かあったのだろうか。
「冬獅郎、私ね、私....
たとえ、檜佐木先輩と付き合うことになっても、冬獅郎とはこうやって一緒にいたい。
こうやって、気軽に話がしたいんだ。
たまには一緒に帰りたい。ワガママかな?ダメかな?」
素直に言えば、嬉しい。でも同時に苦しみがこみ上げる。
付き合ってるのを、一番近くで感じてしまう気がして。
「檜佐木に怒られるんじゃねぇか?」
「説得するっ!」
手をグッと握り締めて自分の前に出す。
「、」
「とーしろ?」
やっぱムリだ。こうなってしまった以上、俺の心はズタズタだ。
お前の前で今は笑っていられる、でもこれからずっとはムリかもしれない。
いつか、お前を壊してしまう。俺とお前という関係さえも。
「俺は、ずっとお前が好きだった。」
彼女の耳元でふっと息をかけるような声で、呟いた。
ふわっと、彼女の横をすり抜けた。
“とーしろっ!”
とすぐに振り向き俺に向かって叫ぶ彼女。
ごめんな、なんて言えたら、彼女をこんな風に苦しめてしまうことはなかったかもしれない。
けどな、俺はずっとお前だけが、だけが好きだったんだ。
これを恋と言うのですか?
それは甘酸っぱいものじゃなくて、ほろ苦いもの。