01.その空間は確かにあったんだ






「はっ!えい!」




しゅっ、ばしっ!




、頑張っているな」


「父上っ!!」





剣術の練習をしているところに、父上が来る。



「腕は上達したか?」


「…まだ、まだです。」




しゅんと頭を下げると、わさわさと頭を撫でる心地の良い手。



「頑張りなさい。お前はちゃんと腕を上げていると、私は思っているぞ」


「…っはい!」




私の頭を撫でる父上の手。

その手が離れるとともに、父上は私に背中を見せた。



父上の背中に私は頭を下げた。





そうして目を、剣術の練習用のわら人形に戻す。




さわさわと流れる風。


その風が私を剣術の練習へと集中させる。




剣を鞘から振りぬき、斜め右下から左上へとわら人形を切りつける。



すぱっと音を立てて、きられた部分が落ちる。







様」


「…修兵」




我が家の家臣である修兵。


いつも夕刻前に私の練習を見に来る。



「…今日は良い感じで練習をされたみたいですね」


先ほどまで切っていた藁をみる修兵。



「えぇ、父上が褒めてくださったから」



「そうですか、当主が…。


今日は藁がしっかりと切れていますね。

昨日のは何があったのかは知りませんが、ところどころ切れていない藁があり…」



昨日の恥ずかしい光景を思い出す。




最近、自分の中で剣術がうまくいっていると思って

格好をつけて藁を切ったら、切り口から切れていない藁が出ていた


…というところを一部始終、修兵に見られていたのだ。




「しゅ、修兵!昨日のことは掘り返さない!」


「あはははは…様はいつ見てもあきませんね」




修兵の笑顔は、私を見守る兄上のような感じ。

とても心が温かくなる。


はっとして、酉の方角の空を見ると、日が沈みそうだった。



「修兵!私、出かけてくるわ!!」


剣をしまい、近くの扉から街のほうへ出る。






様…っ!」


心配そうな修兵の声を無視して走る。












走ってきた場所は、今我が家に敵対する日番谷家が見える丘。



日番谷家は昔、我が家の家臣であった。



苦楽を共にしてきた仲間のはずだった。



日番谷家当主、日番谷俊三は父上の側近だった。

裏切りは、もう2月も前の話になる。




俊三が、母上を殺したことから始まった。


でも、いつかこうなることは分かっていた。



冬獅郎がその夜、私の部屋に入り、襲ってくることも…






「…冬獅郎」


右肩を抑えれば、その時に負った傷が疼く。


母上が死に、幼馴染であった冬獅郎に裏切られ


いつも何もかもを責めては、この場所に来てしまう。




一歩先に進めば、敵領土。

殺されてもおかしくはない。




「…約束はもう」



小さいときにした、口約束。

冬獅郎はもう、覚えていないよね。






先に見える日番谷家。



それに背を向けて帰る。







もう一度、冬獅郎に会うための力をつける為に